糖尿病について (2)

研修医時代に指導医の先生がこんな話をしてくれた。「糖尿病の患者さんは嘘をつくものだ。食事療法をしっかりやっていますと言いながら、ちょっと目を離すとアンパンを食べていたりする。それぐらい、好物を我慢したり、お腹いっぱい食べることを我慢することは人間にとってつらいことなんだ」。

「だから食事療法で血糖管理を行うというのは、口で言うほど簡単ではない。少し怠ける、血糖値が上がる。反省して、また食事療法に取り組む。血糖値がよくなる。少し怠ける。これの繰り返しだ。でも、それでもいいと思う。検査値を知って、あっ!これではいかんなと、気を引き締めるきっかけを提供することが大切なんだ」。

もう10数年も昔のことであるが、折に触れて思い出す。治療の対象が血糖値ではなく、生身の人間であることを痛感したからであろう。

糖尿病実態調査

平成9年に、厚生省が糖尿病実態調査を実施した結果、次のことが明らかになった。
1糖尿病が強く疑われる人は690万人、可能性を否定できない人を含めると1,370万人と推計された

2検診の結果、糖尿病の疑いがあるとされた人については、男性で66.7%、女性で74.6%しか事後指導を受けていなかった。3糖尿病が強く疑われる人のうち、現在治療を受けている人は45%に過ぎなかった。4過去の最大体重による肥満度の高い群ほど、糖尿病の有病率が高かった。

健康日本21における目標値

糖尿病分野では、前述した糖尿病実態調査の結果を踏まえ、糖尿病の一次予防、二次予防、三次予防に対応した目標値の設定を行った。

一次予防

1成人の肥満者(BMIが25.0以上)の減少
平成9年の国民栄養調査の結果では肥満者が、20~60歳代男性は24.3%、40~60歳代女性は25.2%であるが、西暦2010年には、それぞれ、15%以下、20%以下にする。2日常生活における歩数の増加

平成9年の国民栄養調査の結果では歩数が、男性約8,200歩、女性約7,300歩であるが、2010年には、それぞれ、もうあと1,000歩増やす。

3過食や脂肪の過剰摂取を控え、質・量ともにバランスのとれた食事をとるように心がける
4糖尿病有病者を約1,000万人以下にする

2010年には1,080万人の有病者数が推計されているが、前述の生活習慣の改善によって、糖尿病有病者を約7%以上減少できると見込まれる。

二次予防

1定期健康診断など、糖尿病に関する健康診断受診者の増加
平成9年の健康・福祉関連サービス需要実態調査によると約4,600万人が受診しているが、2010年には5割以上の増加を目指す。
2糖尿病検診における異常所見者の事後指導の徹底

三次予防

1糖尿病有病者に対する治療継続の指導を徹底
2糖尿病の合併症発症の減少
糖尿病性腎症による透析導入、糖尿病性網膜症による視覚障害の減少を目指す。

日本人と糖尿病

「この世をば わが世とぞ思ふ望月の 欠けたることの なしと思へば」御堂関白、藤原道長53歳の歌である。立川昭二先生が著された「日本人の病歴」(中公新書)では、道長とその一族が「糖尿病」に苦しんでいたと紹介されている。

平安貴族が残した日記、随筆、物語などからかなり詳しく彼らの病気や医療を知ることができるそうである。いわゆる病跡学である。『栄華物語』や道長自身の日記からは、彼と彼の一族の口渇、多量飲水の症状がはっきりと読み取れるそうだ。また、『小右記』によると度重なる胸病発作や視力障害、腫れ物の記述もあるらしい。

糖尿病の合併症である狭心症、白内障、癰(はれもの)であろう。平安貴族には「飲水病」が流行ったことから、もともと日本人は糖尿病になりやすい遺伝子を有しているという指摘もあるようだ。飽食の時代にあって最も日本人が気を付けなければならない病気の一つといえよう。

日本糖尿病協会の試み

そうはいっても、糖尿病は初期には自覚症状がほとんどない病気である。また、治療を受けても、病気そのものが完治してしまうものでもない。長期間にわたる血糖管理に医療従事者も患者も取り組まなければならない。このことが十分理解されていないと、治療の中断につながりやすく、ひいては血糖管理の不良、重篤な合併症を引き起こすことになる。

患者さん同士の交流は、孤独な血糖管理の支えとなり、治療継続の観点からも有益である。昭和36年に設立された日本糖尿病協会という患者さんを中心にした組織の会員数は現在7万人を超える。『さかえ』という機関誌を発行しているほか、糖尿病週間の主催、サマーキャンプの支援、食品交換表の発行、糖尿病手帳の編集発行等、糖尿病に関するさまざまな普及啓発活動を行っている。

21世紀最初の年に創立40周年を迎える同協会の活動、すなわち糖尿病という同じ病気を持った人々が、ともに勉強し、励ましあい、病気を克服しようとするその活動に拍手を送りたい。

参考:厚生省保健医療局地域保健・健康増進栄養課 課長補佐

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