蜂の巣の被害に関するニュース

スズメバチ 毒の量より怖いアレルギー症病

ハイキングなどに出かける機会が多くなる秋に、注意したいのがスズメバチに刺される事故だ。激しい痛みに苦しむのはもちろん、ショック症状で死亡してしまうこともある。

近寄らないのが一番だが、刺された場合の処置法も知っておきたい。

「今年は例年に比べてスズメバチの数は多そうだ」ハチの生態に詳しい玉川大学の小野正人教授は注意を呼びかける。

例年、5月の連休(ゴールデンウイーク)ごろから、冬眠していた女王バチが巣作りを始める。この頃は幼虫の世話やえさの確保と女王バチー匹の負担が重い。女王バチが死んでしまうと子孫が残せないので、人間を見かけてもむしろハチの方が身を潜めるという。

空梅雨で動き活発

梅雨になると低温と雨でえさの昆虫がつかまりにくくなり、死ぬ女王バチも多い。ところが、今年は空梅雨で猛暑。スズメバチの繁殖には絶好の条件だった。「東京都町田市にある玉川大学近辺を調べると例年に比べて巣の数は多い」(小野教授)という。

梅雨を乗り切ると、働きバチの数が増え始めて活動が活発になる。9~11月が繁殖期で、巣の大きさは直径50センチメートルにもなり、500~1000匹が暮らす。子供がいる巣を守ろうと、働きバチは巣に近づく天敵を容赦なく攻撃する。このためスズメバチの事故は秋に多い。

スズメバチに刺されてやっかいなのが一度刺されると体からハチ毒を排除しようとして抗体というたんぱく質ができてしまう点だ。ハチ毒を異物としてとらえる抗体がある体で、もう一度刺されると「アナフィラキシーショック」と呼ばれるアレルギー症状を起こす。
ハチ毒が抗体にくっつき、毛細血管が広がる。症状が軽い人であればじんましんで済むが、重い人は激しく体が反応する。血圧低下や呼吸困難を招いて最悪の場合は死に至る。血管が広がって声帯部分が腫れると窒息の危険性が高まる。血圧の低下も最高血圧が50くらいまで下がって亡くなる人もいるという。

関西医科大学の鍬方(くわがた)安行・主任教授は「スズメバチによる死亡例の多くは『アナフィラキシーショック』が原因」とみる。

ハチの毒はごくわずか。毒だけで人間が死ぬには相当の数のハチが必要だ。ところが実際にはハチに剌されて亡くなる人が後を絶たない。過去に剌された経験があり、アレルギー症状を起こしたとみられる。実際、死亡者の年齢も大半が50歳以上と比較的年齢が高い。

自己注射薬携行を

ハチ毒に対する抗体のできやすさは人それぞれ。小野教授は1000回くらい剌されているがアレルギー症状に見舞われたことはないという。

アレルギー症状が出やすい人は要注意だ。刺されてから数分から十数分で症状が出やすく、救急処置として「エピペン」という自己注射薬を携行するのが予防策になる。医師に処方してもらう。成分のアドレナリンが、血圧を高めてショック症状を和らげる。

太ももに自分で剌す。鍬方主任教授は「命と引き換えと考えれば、剌された時はちゅうちょせずにすぐに使うべきだ」とアドバイスする。初めて剌された時は、冷やすといった対策が中心だ。剌された場所に注射器のようなポンプを当てて、ハチ毒を吸い出す装置も売っている。

ただ、刺されないのが一番いい。スズメバチも、出会った人間を見境なく剌すわけではない。巣には門番役のハチが2、3匹いて、近づくと身の回りをまとわりつくように飛び回って様子を見る。来た道をゆっくり戻って巣から遠ざかれば、敵と思われずに済む。

手などで振り払おうとすると、危害を加えると見なされて剌される危険性が増す。剌されかけたら、ハチの毒に揮発性物質が含まれていることに注意する。ハチは香りで連絡を取り合っている。針が毒を放つと揮発性物質の香りが漂い、敵の存在を巣の仲間に知らせる警報となる。

マシンガンのように巣から多数のハチが押し寄せるので、剌された場所から素早く10メートル以上は離れないとさらに剌される。ハチに揮発性物質の香りと勘違いされないよう、野山に入る時は化粧や香水はなるべく避けた方がいいという。

また「黒い頭髪や黒目に反応しやすく、白っぽい帽子や淡い色の服装がハチの刺激を和らげる」と小野教授は助言する。(新井重徳)

日本経済新聞 2013年10月4日より

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