汚染の大地に生きる (上)
仕事を求めてウズベキスタンから来たという男性を診察する鎌田實。心臓病をもち、「ふるさとに帰りたくても帰れない」と言う
1986年4月26日未明、ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所4号炉が爆発した。見えない、匂いのない放射性物質が風に乗って、北東へ向かった。
ロシア国境に近いベラルーシ共和国のゴメリ州のベトカに黄色い雨が降った。
ベトカ地区病院のナジェージダ院長は、声を落として、ぼくにささやく。
「旧ソ連政府が、モスクワを守るために、雨を降らせたんだ」
ベラルーシを訪れるたび、こんな話を何度も耳打ちされた。風に乗った放射性物質がモスクワを襲う前に、人工的に雨を降らせて、放射性物質を地上に落としたのだ、と。事実はどうなのかわからない。ただ、現地の人たちの間では、そんなうわさがささやかれている。地域によっては黒い雨だったとも聞いた。そして、地上には、雨によって落とされた放射能により、まだら状の高汚染のホットスポットが何箇所かできた。その最たるものが、ベトカである。
原発事故以前、ベトカには4万人が住んでいた。放射能汚染により、人口流出が進み、2万5000人がこの地から去っていった。
しかし、不思議なことが起こっている。このベトカで人口が増えているのだ。現在の人口は2万1000人。急にたくさんの子どもが生まれたわけでは決してない。カザフスタンやタジキスタンといった、ソ連崩壊後に分かれた国々から、移住者が流入しているのだ。
- プロフィール
- 鎌田實 かまたみのる
- 誕生日:1948年6月28日
- 諏訪中央病院名誉院長
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