2010年8月 8日 -- 心の病 --

裏社会からの人生逆転劇 ・ 前編 (下)

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 でも、どうやって? いきなり、すべては変えられない。

 「いやあ、本当、くだらないことから始めたんですよ」

 彼は、照れ笑いする。まずは、道路に唾を吐かないことから始めた。割り込んできた車に、クラクションを鳴らさない。前からどんな人が歩いてきてもガンを飛ばさない……。たしかに小さな行動変容だが、それは、彼の周りにある空気を確実に変えはじめた。

 人にはきちんとあいさつをし、言葉使いにも注意した。何かしてもらったら、感謝の言葉も忘れないようにした。

 「ゴルフを始めるときに、外見から入る人っているでしょう。それと一緒で、人は外見も大事です。人間は最終的には中身が大事ですが、まずは外見から変えていったのです」

 そうか、わかった。背筋を正し、ビシッとしている謎が解けた。

 次第に会社の仕事も増えはじめた。そして、10年連続の増収増益も達成。起業家として成功していった。

 まっとうな社会で汗を流し、お金を得る。家庭を築く。しっかりした環境があれば、どんな状態に陥っても、ワルの誘いもはねつけることができると思って、必死に働いた。

 その後、彼は、「JAPAN元気塾」を立ち上げ、不良少年だった自分の経験を活かして、若者たちの更生、自立に力を尽くすようになっていく。彼の壮絶な半生は『「親のようにならない」が夢だった』(ダイヤモンド社)という本にまとめられている。

 どん底からよくぞ這い上がれたなと思う。でも、どん底までいったから、浮上できたのかもしれない。ぼくは、たくさんのアルコール依存症の人とつきあってきた。まだまだ自分は大丈夫と思っているうちは、なかなか酒を止められない。カッコをつけている自分に足をすくわれる。でも、「落ちるところまで落ちた」という底つき体験をした人ほど、行動変容がうまくいく。落ちて、絶望の淵が深いほど、人は変われる可能性があるのだ。

 加藤秀視さんは言う。

 「必ず、人間には大事なものがあるんです。ぼくは自分が捕まることや、身体がどうにかなることはなんともなかった。ただ、仲間には同じ目に遭わせたくないと思った。人はだれかのためなら、いつでも変われるんです」


プロフィール
鎌田實さん
鎌田實 かまたみのる
誕生日:1948年6月28日
諏訪中央病院名誉院長
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