2010年8月 7日 -- 心の病 --

裏社会からの人生逆転劇 ・ 前編 (中)

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 父親がアルコール依存症だった。いつも母親に暴力を振っていた。それを止めようとして、父親に殴られた。そのとき、彼の前歯は折られ、今の歯は自前ではない。父親が眠る深夜3時、4時まで安心できなかった。両親は離婚し、一時期、施設で育った。

 加藤少年を支えていたのは、父親のようになりたくないという思いだけ。しかし、あるときふと気づく。「自分はオヤジ以上の悪になっている」

 暴走行為で拘置中、ヤクザの組長や詐欺師、窃盗罪の男に会った。それぞれの男たちが、自分の未来と重なって見えた。40代になったときを想像してみた。60代になったときの自分も想像してみた。暴力にもの言わせて、ケチな権力の上にあぐらをかいても、決して幸せではないことに気がついた。この一瞬の気づきが大切だと思う。自分はまっとうな人生を歩もうと決意した。

 22歳のとき、暴走仲間とスコップ1本から、建設会社をはじめた。「刑務所で2、3年つとめるくらいなら、シャバで2、3年死ぬ気でやれば何かできるはず」

 しかし、裏社会から離れられなかった。更生しようと思っても、悪の誘惑の手が伸びてくる。とうとう覚せい剤に手を染めてしまう。薬物に頼っているときは、すべてから自由になれるような気がした。もちろん、錯覚だった。自由どころか、生活も体もがんじがらめにされていた。それに気づいて止めようするが、今度は脱出口がみつからなかった。

 そんななか、社員が飲酒運転の事故で命を落とす。彼にとって大事な仲間だった。

 「ぼくは、歌舞伎町で飲み歩いて、ベンツ転がすのが人生だと思っていました。うちの社員も、そんなぼくに憧れているんですよ。でも、社員を失ったときに初めて気がついたんです。人には、真面目になれよ、夢を持てよ、と言っておきながら、自分には夢がなくて、毎日酒におぼれて、車に乗っていたんだと。そして、もしかして、自分は間違っているのかな? とようやく気がついたんです」

 それから、加藤さんは変わっていく。(次回に続く)


プロフィール
鎌田實さん
鎌田實 かまたみのる
誕生日:1948年6月28日
諏訪中央病院名誉院長
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