「健康」も「家族」も失った人にかけられる言葉
何かを失うことを、「喪失」といいます。
失うものは、物とは限りません。私たちが年を取ると、病気になったり、体力が衰えたりします。両親や家族、友人が亡くなることもあるでしょう。人によっては子供の独立もそうです。このように健康や若さ、大切な人たちを失うことを、「喪失体験」と呼びます。おおよそ50~60歳代以上の方が、こうした「喪失」を経験する可能性が高いと言えます。
患者のAさんは最近、いくつもの「喪失」が重なりました。これまでは気のよい、おしゃべり好きな方で、診察室ではいつも笑顔で冗談を言って、私を笑わせてくれていました。しかし、半年前から急に、その笑顔が辛そうに見えるようになったのです。
「私にとって、よりどころだったところが、全部なくなっちゃったのよ」
彼女は言います。こうした言葉が出るようになったのも、実は最近のことです。そして、固い笑顔をつくり、「今は、人生におけるいろいろなことを、再構築する作業の途中なの」と話してくれました。
今、私ができることは、話を聞くことと、「あせらないでください」「がんばりすぎないでください」という言葉をかけるくらいです。それ以外の方法がないのです。私達、医師がいくらじたばたしても、つらい気持ちを楽にしたり、ましてや代わってあげたりすることなどできないのです・・・
それでも、彼女はありがとうと言ってくれます。楽になったとも言ってくださいます。せめて、Aさんにとっての支えの一つになれればと思っています。
- プロフィール
- 中野 智紀(なかの・ともき)
- 日本糖尿病学会認定専門医
- 1976年埼玉県越谷市生まれ
- 獨協医科大学卒業
- 特技:剣道三段
- 詳しいプロフィー ルはこちら


