2010年5月31日 -- 心の病 --

「健康」も「家族」も失った人にかけられる言葉

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 何かを失うことを、「喪失」といいます。

 失うものは、物とは限りません。私たちが年を取ると、病気になったり、体力が衰えたりします。両親や家族、友人が亡くなることもあるでしょう。人によっては子供の独立もそうです。このように健康や若さ、大切な人たちを失うことを、「喪失体験」と呼びます。おおよそ50~60歳代以上の方が、こうした「喪失」を経験する可能性が高いと言えます。

 患者のAさんは最近、いくつもの「喪失」が重なりました。これまでは気のよい、おしゃべり好きな方で、診察室ではいつも笑顔で冗談を言って、私を笑わせてくれていました。しかし、半年前から急に、その笑顔が辛そうに見えるようになったのです。

 「私にとって、よりどころだったところが、全部なくなっちゃったのよ」

 彼女は言います。こうした言葉が出るようになったのも、実は最近のことです。そして、固い笑顔をつくり、「今は、人生におけるいろいろなことを、再構築する作業の途中なの」と話してくれました。

 今、私ができることは、話を聞くことと、「あせらないでください」「がんばりすぎないでください」という言葉をかけるくらいです。それ以外の方法がないのです。私達、医師がいくらじたばたしても、つらい気持ちを楽にしたり、ましてや代わってあげたりすることなどできないのです・・・

 それでも、彼女はありがとうと言ってくれます。楽になったとも言ってくださいます。せめて、Aさんにとっての支えの一つになれればと思っています。


プロフィール
写真
中野 智紀(なかの・ともき)
日本糖尿病学会認定専門医
1976年埼玉県越谷市生まれ
獨協医科大学卒業
特技:剣道三段
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