2010年2月22日 -- 癌 --

白血病の子どもに「甘露」

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 昨年の秋、仙台で全国国保地域医療学会が開かれた。この学会は、地域医療の担い手が集まる。学会の市民公開講座で、聖路加国際病院の副院長で、小児科医の細谷亮太先生とあったかな医療について語りあった。たくさんの市民たちが聞きにきてくれた。

 ぼくは、最近の諏訪中央病院のアニマルセラピーや、緩和ケア病棟のボランティア、病院の庭づくりに取り組むグリーンボランティアの活動について話した。最後にぼくが書いた絵本『雪とパイナップル』(集英社)の話をした。

 ベラルーシ共和国の放射能汚染地域の子どもが白血病になった。骨髄移植をしたが、敗血症になった。高熱のため、食事がとれなくなった。その少年がパイナップルが食べたいと言う。それを聞いた、日本の看護師たちが雪のベラルーシの町ゴメリをパイナップルを探して歩いた。どこの店にもパイナップルはなかった。しかし、噂(うわさ)を聞いた人のなかにパイナップルの缶詰を持っている人がいた。その人は感動して、子どもに食べさせてあげてほしいと、病院に缶詰を届けてくれた。

 子どもは奇跡的によくなり、退院できた。10か月後、子どもの白血病が再発して死んだ。お母さんは「息子のためにパイナップルを探してくれた日本人がいたことを忘れない」と言ってくれた。

 細谷先生は、「鎌田先生がパイナップルなら、ぼくはブドウの話をします」といい、はじめた話がとてもすばらしかった。

 彼は、その前にこんなことをつけ加えた。

 小児がんの治療は完治を目指して行われるようになった。病気の説明が年齢に応じてわかるように行われることが重要。子どもにも告知をするのだ。残念だが、終末期を迎えることもある。そんな時は「心」「体」「たましい」に配慮して、緩和ケアを行う。目標は「治癒」から「平安」に変更される。

 本題のブドウの話に戻す。

 白血病の子どもをもったお父さんが、ブドウの好きな自分の子のために、季節はずれのブドウを食べさせてやりたいと思った。有名な東京・銀座の果物屋さんの前を行ったり来たりした。

 一房丸ごとは、高すぎて買えない。何度も行ったり来たりしているうちに、店員さんから声をかけられた。

 「病気の子どもにブドウを食べさせてあげたいけれど、子どもの病状はよくなくて、一房は食べられそうもありません」

 それを聞いた店員さんは言った。「わかりました、特別に量り売りをしましょう」

 一房の何分の一かにはさみを入れて、小さな子ども用の房をつくってくれた。

 なんともいい話だなと思った。お父さんにとっては、小さな房でも、高いブドウだっただろう。小さく分けてもらって買ったブドウの房には大きな房の何倍もの価値があったように思う。小さな房にはお父さんの優しさや、店員さんのあたたかな心が入りこんでいたから。

 2月のゴメリというマイナス20度の雪の町を、病気の子どものためにパイナップルを探して歩く日本人が、パイナップルの缶詰を持っている人へあたたかな連鎖を起こした。日本の白血病の子どものお父さんの親心が、果物屋の店員の心にあたたかな連鎖を起こしたのだ。あたたかさはあたたかな連鎖を起こす。信じていい。(この回は、2010年2月21日掲載の読売新聞から転載しました)

プロフィール
写真
鎌田實 かまたみのる
誕生日:1948年6月28日
諏訪中央病院名誉院長
詳しいプロフィールはこちら

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