歯科医 つれづれ記
(29)「お任せします」は危険
「たこは冬!」。
たこを食べるのは冬が旬だということを言いたかったのだろうが、一瞬、友人との談笑も凍り付き、気まずい思いで早々に店を後にしたらしい。おいしいと評判の店でも、会話ひとつで、砂をかむようにまずくもなる。
歯科医院においてもしかり、説明不足、コミュニケーション不足、理解不足などなどが相まって、歯科医と患者が気まずくすれ違う。
「前の歯科医院で歯を抜かれてしまったんです」「知らないうちに歯を削られて、気が付いたら、ここが銀色になっていたんです」などと、患者さんから、全く納得できないような調子で言われることがある。それが1人や2人ではなく、初診の患者さんの多くからである。
ちょっと、ちょっと、本当ですか? それじゃまるで犯罪じゃないですか。傷害罪で訴えられてしまいますよ。
もちろんそんな訳はないだろうが、歯科医側としては、患者さんにそう思わせてしまうこと自体問題である。
抜かれた歯は、歯科医学上の基準では抜歯の適応だったのであろう。だからと言って、患者さんに説明しないで抜いてよいわけではない。「気が付いたら銀色だった」なんて言葉だけはロマンチックだが、これまた患者さんとしてはやりきれない。歯は白いものと思っているのに、いきなり銀色である。納得するわけがない。
歯を抜く場合でも、削る場合でも、本来は歯科医と患者との間で契約が出来ていたはずである。ところが歯科医の説明が、どこまで患者さんに通じていたかは分らない。とくに保険治療では、説明に対する報酬がほとんどないため、歯科医側も十分に説明をしていないことが多い。患者さんの不満は治療そのものよりも、治療に対する説明不足に向けられることが圧倒的に多い。
患者さんの中には「全部、お任せします」と言って下さる方もいる。まあ、それはそれでありがたいのだが、「お任せします」と言ったのに、思った通りに進まないと、手のひらを返したように文句を言う人もいる。今度は歯科医の方が納得いかない。
治療方針の最終決定は必ず自分で行い、「お任せします」は、お互いに最も危険と心得るべきである。(東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長、次は10月24日)
| プロフィール | |
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安田 登 やすだ・のぼる
1969年東京医科歯科大卒。パリ大学留学、第一生命日比谷診療所、東京医科歯科大臨床教授を経て東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長。
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