2008年7月20日 -- 歯科 --

歯科医 つれづれ記

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(24)日本の接着剤 世界最先端

 不覚だった! まるで魔法にでもかかったように、親指と人さし指の先端がくっついて離れない。押せども引けども離れず、両方の指でリングを作ったままの状態である。

 実は魔法でもなんでもなく、単なるミスである。いや、ミスというよりドジであった。

 普段は滅多(めった)にやらない家の仕事、たまたま時間ができたので、食器棚の扉の修理を買って出た。接着剤を使って、まあ何とか格好がつく出来映えで扉の修理は完了した。悲劇はその直後のこと、もうお分かりであろう、接着剤が指について離れなくなってしまったのである。

 歯科で使用している接着剤も素晴らしい速度で発展している。日本は、接着性レジンと呼ばれる歯科用接着剤が、世界で最も進んでいる国である。何しろ、日本で開発された数少ない技術の一つで、皆さんはその恩恵を歯科医院で受けているはずである。

 まずは、歯列矯正。ダイレクト・ボンディング・システムといって、プラスチックの装置を歯に接着することで、あまり目立たない方法で行うことができる。それ以前は金属製の輪を一つずつ歯にはめて、セメントで付けていたので、口中ギンギラになり、はめていた子供もきっと嫌だったと思う。

 次はむし歯治療。これを接着の技術で行うと、再びむし歯になる率が極端に減少する。むし歯の部分を取り除いたあとの表面に、接着性レジンを塗ると、歯の中に染み込んでいって、歯の成分と一体化して耐酸性の強い歯になる。こうなれば、むし歯の原因となる、細菌が出す酸に対して溶解することもなく、歯は安全に守られると言うわけだ。

 接着性レジンは、歯に対してはもちろん、詰め物、(かぶ)せ物に使用する金属、セラミックにも強い結合力を持っている。この強い結合力が、歯科治療に次々と新しいアイデアを生んでいる。

 例えば接着ブリッジ、1本歯が抜けても、その両側の歯をあまり削らずにブリッジを作ることができる。また、褐色や黒色に変色した歯に対して、歯の表面をわずかに削り、コンタクトレンズのように薄いセラミックを貼(は)り付けるラミネートベニアという技術もある。両者とも接着剤の進歩なくしては生まれることの無かった治療法と言える。入れ歯が壊れたときにも、また、せっかく白い歯を入れたのに欠けてしまったときなどにも、接着性レジンを使えば、簡単に修理することができる。このように歯科用接着剤は、今や歯科治療の多くに欠かせない材料となっている。

 それにしても、付いてしまった親指と人さし指はどうして外したらよいのだろう? やはり、ナイフでそっと切り離すより他はないか。ああ、恐るべき接着剤の進歩!

 (東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長、次回は8月1日)

安田 登 やすだ・のぼる

 1969年東京医科歯科大卒。パリ大学留学、第一生命日比谷診療所、東京医科歯科大臨床教授を経て東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長。

2008年7月18日 読売新聞

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