2008年5月21日 -- 心の病 --

高齢者と薬

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向精神薬で排尿困難に

薬による排尿困難の症状について解説する奥井伸雄さん(横須賀市立うわまち病院で)

 神奈川県の女性(84)は昨年春、妹を亡くし、ふさぎ込むようになった。眠りも浅い。近くの診療所で、気持ちを落ち着かせる働きのある向精神薬、カルバマゼピン(商品名テグレトールなど)を処方され、飲むようになった。

 少し眠れるようになったが、なぜか、おしっこがほとんど出なくなった。尿意は頻繁に感じるのに、トイレに行っても、尿が出ない。尿道に栓をされたような不快感と残尿感。耐えがたい苦痛だった。

 この女性は、以前にも似たような経験をしていた。

 2004年春、「たびたびトイレに行かなくてはならず、困っている」と、近くの診療所で相談した。医師は、尿をためる膀胱(ぼうこう)が小さくなり、頻繁に尿が出る「頻尿」だと考え、尿の回数を減らす「抗コリン薬」を処方した。

 膀胱は、特定の神経から放出されるアセチルコリンという神経伝達物質の作用によって収縮し、排尿する。抗コリン薬には、このアセチルコリンの働きを妨げる「抗コリン作用」があり、膀胱の収縮を抑え、頻尿を改善する。

 しかし、彼女は実際には頻尿でなく、排尿しづらい「排尿困難」だった。医師が症状を聞き間違えて、尿の回数を減らす抗コリン薬を処方、排尿困難が悪化したのだ。こうした間違いは、医療現場ではしばしば起きているとみられる。

 神奈川県の横須賀市立うわまち病院泌尿器科部長の奥井伸雄さんの診察を受けたところ、薬が原因とわかり、抗コリン薬の服用をやめた。

 膀胱にコブができて尿がたまり、排尿しづらくなっていることも分かった。膀胱の形を整える手術を受け、尿は出るようになった。

 今回も、うわまち病院を受診した。奥井さんは「向精神薬のカルバマゼピンも抗コリン作用がある。それが排尿困難の原因ではないか」と考え、薬の量を減らした。女性の症状は少しずつ改善している。

 薬の副作用が、思ってもみない症状として表れる。国立保健医療科学院がまとめた高齢者の「要注意薬」の一覧表によると、抗コリン作用で排尿困難が起きる恐れのある薬として、このほかに〈1〉じんましんや皮膚炎、鼻炎などの治療に使われる抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬〈2〉肩こりや腰痛などで使われる筋弛緩(しかん)薬――などがある。

 奥井さんは「医師が、うっかり抗コリン作用がある薬を処方することもあるので、調剤する薬剤師も目を光らせてほしい」と話している。

2008年5月14日  読売新聞

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