高齢者と薬
抗不整脈薬で心拍停止
薬の副作用で心臓が停止した経験がある小林忍さん(東邦大医療センター大橋病院で)
川崎市の主婦、小林忍さん(69)は2005年5月、持病の不整脈で通院している近くの診療所まで、夫に車で送ってもらった。
「歩いて帰るから。どうもありがとう」。そう夫に声をかけ、診療所に入った直後のことだった。
意識を失い、倒れた。突然、心臓が止まったのだ。血液を送り出す心臓の心室が不規則に震え、心臓が拍動できない不整脈「心室細動」を起こしていた。
救急車が呼ばれ、車内で電気ショックによる治療が行われた。心臓は動き出したが、運ばれた病院で意識不明の状態が続いた。
それでも、3日後に意識が回復した。幸い、後遺症を残すことなく、1か月半後に退院した。
病院の医師は、小林さんが飲んでいた抗不整脈薬の塩酸ベプリジル(商品名ベプリコール)の副作用が、「倒れた原因の一つ」と推測した。心臓の異常な興奮を鎮め、脈のリズムの乱れを正常にする薬だ。
小林さんは42歳の時、胸が突然ドキドキしたことから、不整脈の一つ「心房細動」と分かった。心房は、全身や肺から心臓に戻った血液が入る部位で、ここが震える病気だ。血液の塊ができて脳に飛び、脳血管が詰まって脳梗塞(こうそく)を起こす危険がある。
様々な薬で治療してきたが、02年暮れ、ベプリジルを毎日飲み始めた。倒れたのは、その2年半後のことだった。
東邦大医療センター大橋病院(東京都目黒区)副院長の杉薫さん(循環器内科)は「この薬は、心房の不整脈を抑える効果が高い反面、心室細動など別の致死的な不整脈を起こすこともある。特に高齢者は注意が必要だ」と話す。
高齢者は、薬の成分を分解したり、不要な成分を排除したりする肝臓の能力が衰え、副作用を起こしやすい。国立保健医療科学院(埼玉県和光市)疫学 部長の今井博久さんらは今年、高齢者に注意が必要な薬の一覧表を作った。これには、ベプリジルと同じ働きをする薬も含まれている。
別の抗不整脈薬のジソピラミド(商品名リスモダン、ノルペース)も、心不全を起こす恐れがあるとして注意を促している。
「一覧表の薬は、使ってはいけないのではない。医師は患者の体調を見ながら、慎重に使ってほしい」と今井さんは言う。
小林さんは倒れた後、別の薬に替えた。毎日、血圧や脈拍などを測ってノートに書き入れ、自ら健康チェックを心がけている。
2008年5月12日 読売新聞


