2008年5月 9日 -- 癌 --

がん治療

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[Q&A]患者の価値観を尊重

 抗がん剤治療について、帝京大(東京都板橋区)腫瘍(しゅよう)内科講師の高野利実さんに聞きました。

 ――新たな抗がん剤が次々に登場し、がん治療は格段に進歩しているように言われています。薬の効果はどれくらいですか。

 「まず、乳がんや大腸がんなどの手術後に、抗がん剤を使うと生存率が上がることは証明されています。これらは、がんの治癒に役立っていると言えます。しかし、再発や転移で手術できない進行がんの場合、抗がん剤で症状が緩和されたり、いくらか延命したりする場合はありますが、白血病などを除くと、がんを治せる薬はありません。薬で数か月間、延命できただけでも、専門家の間では『画期的な進歩』と評価されますが、治癒を望む患者には、ささいなことと思われるかもしれません」

 ――「もう治療法がありません」と言われ、治療を受けられない「がん難民」が問題になっています。

 「『ほかに薬があるのに、なぜ使ってくれないのか』という患者もいます。しかし、使える薬があることと、それを使った方がよいかどうかは別です。抗がん剤を使っても必ず恩恵があるわけではなく、それでいて副作用は必ずあります。副作用でつらい思いをする以上に大きい恩恵が期待できるかどうか、慎重に考える必要があります」

 ――「がん難民」問題は、なぜ起きたのでしょう。

 「抗がん剤がなかった時代は、がん難民もいませんでした。しかし、抗がん剤が登場しても、進行したがんを治せない状況は変わっていません。抗がん剤への過大な期待が、がん難民を生み出しています。『治療を提供すれば、がん難民を救える』とか『治療しないのは、闘病をあきらめることだ』と考えるのは間違いだと思います。ただ、『もう治療法はありません』と見放した言い方は適切でなく、症状を和らげる緩和ケアなどで、患者を支える姿勢が大切です」

 ――抗がん剤治療は、どう活用できますか。

 「まず、何のための治療かを考えることが大切です。『1日でも長生きしたい』『残りの時間をできるだけ穏やかな状態で過ごしたい』などです。抗がん剤は適切に使えば、延命効果だけでなく、症状緩和にも有効ですが、時には期待に反する結果をもたらすこともあります。目標に照らし、どの治療をすべきか、むしろしない方がよいのか、判断する必要があります」

 ――患者の考え方が大切ということですね。

 「はい。私が緩和ケアを行っている肺がん患者に、60歳代の女性歌手がいます。彼女は別の病院で、延命効果の期待できる抗がん剤治療を勧められましたが、髪が抜ける副作用が強く、断りました。黒髪は彼女の大切な個性の一部だからです。治療を選ぶ際は、効果だけでなく、患者の生き方や価値観も考え、納得できるまで話し合うことが重要です」(田中秀一)

 (来週は「病院の実力・不妊治療」です)

 たかの・としみ 1998年、東京大医学部卒。東京共済病院腫瘍内科医長を経て現職。

2008年5月2日 読売新聞

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