がん治療
内視鏡手術も効果は大
肺がんの胸腔鏡手術を行う岩崎正之さん(東海大病院で)
神奈川県の50歳代の医師は昨年、定期健診のエックス線検査で、左肺に直径1センチ余の影が見つかった。早期の肺がんだった。
手術が必要だったが、仕事は休みたくない。年末の休暇を利用し、東海大病院(同県伊勢原市)で、内視鏡を使った手術を受けた。
胸部に2センチの穴を開け、胸腔(きょうくう)鏡と呼ばれる小型カメラや手術器具を差し入れ、モニター画面で胸の内部を見ながら行う。1週間で退院、年明け早々から普段通りに診療を始めた。
執刀した東海大准教授の岩崎正之さんによると、この胸腔鏡手術は、胸部を20センチ以上切開する従来の開胸手術に比べ、傷が小さく、手術後の痛みが少ない。入院期間は短く、肺炎など手術後の合併症も少ない。
そればかりではない。1987年以降、同大で行った肺がん手術では、患者の5年後の生存率は、進行度1期と早期の場合、開胸手術で76%だったのに対し、胸腔鏡手術は93%に達した。2~3期でも、胸腔鏡手術の方が高かった。
これらのデータは単純には比較できないが、岩崎さんは「実際に、治療成績は胸腔鏡手術の方が優れているのではないか」と話す。
その理由として、岩崎さんは、大きく切開する開胸手術では、体の抵抗力が弱まり、体内に残った微小ながん細胞を抑える免疫力が低下するのに対し、胸腔鏡手術ではそうした影響が小さいと考えられることなどを挙げる。確かに、手術後の血液検査では、免疫に関係のある白血球やサイトカインなどの変動が、胸腔鏡手術では少ない。
大腸がんでも、腹部に開けた小さな穴から内視鏡を入れて行う腹腔(ふくくう)鏡手術が広がっている。回復が早く、腸閉塞(へいそく)など手術後の合併症が少ない。海外では、腹部を大きく切開する従来の開腹手術に比べ、「患者の生存率は同等」との報告があるほか、「進行度3期なら腹腔鏡手術の方が良い」とのデータもある。
国内でも、両方の手術の生存率を比べる大規模な臨床試験が進んでいる。その責任者である大分大教授の北野正剛さんは「腹腔鏡手術では、免疫力が保たれ、がんの転移を抑えられる可能性がある」と話す。試験結果が出るのは3、4年先だが、「少なくとも生存率が同等なら、合併症が少ない腹腔鏡手術の方が望ましい」としている。
「慣れた方法だから」と、開胸、開腹手術を続ける医療機関も多いが、内視鏡手術の方が効果が大きい可能性も出てきた。ただ、内視鏡手術は高い技術が必要で、十分な訓練が求められる。
2008年4月29日 読売新聞


