がん治療
「放射線より手術」の弊害
さまざまながんの治療に使われる放射線治療装置(東大病院で)
東京都の主婦(39)は昨年、がん検診で、子宮の入り口にできる子宮頸(けい)がんが見つかった。医師に「手術が必要」と言われたが、インターネットで、放射線治療もできることを知った。
東京大病院放射線科で意見を聞くと、「手術でも放射線でも、治る率は変わらない」と説明され、放射線治療を受けることにした。
1か月、連日通院して放射線をかけ、抗がん剤治療も受けた。放射線の副作用で下痢をしたが、治療が終わると治まった。「毎日、家族に食事も作れた。体にメスを入れない放射線治療にして良かった」と言う。
イタリアで、1、2期の子宮頸がん患者を、手術する場合と、放射線治療を行う場合に振り分ける臨床試験を実施した結果、5年後の生存率に差がなく、効果は同じだった。
治療後の副作用は、放射線では直腸からの出血などが起きる場合がある一方、手術では足がむくむリンパ浮腫(ふしゅ)、尿漏れなどがあり、全体では手術の方に多かった。米国の治療指針では、手術と放射線を同等に推奨し、放射線治療が広く行われている。
ところが、日本で昨年作られた治療指針では、「放射線治療も可能」としているものの、手術を優先する内容になっている。しかも、米国では手術の対象を1期から2a期までに限ったのに対し、日本の指針はさらに進行した2b期でも手術を推奨している。
2b期は、がんが子宮の外側に広がった状態で、再発を防ぐ狙いから、手術後に放射線もかける必要がある。ところが、手術後に放射線をかけると、副作用が増幅されて3倍程度になるとされている。
東大放射線科医師の山下英臣さんは「手術後に放射線をかけた場合と、手術せず放射線だけの場合では、どちらが効果が高いか、データはない。副作用を考えると、2b期なら手術せず、放射線治療を行うとした米国の治療指針は合理的」と話す。
手術を勧める日本の指針は、いたずらに副作用を増やす恐れがある。
1、2期とも、手術でリンパ節に転移が見つかった場合にも、放射線照射を追加する。千葉大放射線科教授の伊東久夫さんは「放射線治療だけの場合よ り、治療成績が良いかどうか分からない。後で放射線をかけるくらいなら、最初から手術ではなく放射線治療をした方が良い」と言う。
冒頭の主婦は「最初の病院では、放射線治療の説明がなかった。これでは納得して治療を選べない」と言う。医療界に、手術への過信があるのではないか。
2008年4月28日 読売新聞


