糖尿病講座:(2)糖尿病とは
糖尿病とは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの作用不足によって、慢性的に血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が上昇している病気です。前の晩から何も食べずに朝食前にはかった血糖値(空腹時血糖)が126mg/dL以上であったり(正常は110mg/dL未満、100mg/dL以上は注意が必要)、食事の有無にかかわらず任意の時間に採血した血糖値が200mg/dL(正常では食事をして1~2時間後でもほとんど140mg/dL未満)であれば糖尿病が疑われ、詳しい検査が必要です。
また、1回の採血でも上記のような血糖の上昇(高血糖)に加え、同時に過去1、2カ月の血糖値の平均を反映する指標であるHbA1C(4.3~5.8%が正常)が6.5%以上であれば、糖尿病であると診断できます。糖尿病やその予備群でも、初期には空腹時血糖値はほぼ正常値であることが少なくなく、空腹時血糖値だけを測定する従来の多くの健康診断では、いわゆる「隠れ糖尿病」やその予備群が見逃されがちでした。本年度からはじまった特定健診では、HbA1Cを測定することが推奨されており、糖尿病の診断率が向上することも期待されています。
糖尿病には、大別すると、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンを注射しないと生存できない1型糖尿病と、インスリンの分泌が少ないなどの遺伝的な素因に加えて、過食や運動不足などによる肥満が引き金となってインスリンの作用が低下することによって起きる2型糖尿病があり、後者が糖尿病全体の90%を占めています。2002年の厚生労働省の調査によると、わが国の糖尿病患者は740万人で、50年前と比べると30倍以上増加していますが、これはおもに肥満のまん延などによる2型糖尿病の増加によるものです。
高血糖が持続していても、よほど高値にならない限り自覚症状は少ないのですが、恐ろしいのは適切な治療を受けないまま数年以上経過すると、しばしば、いろいろな臓器に障害(合併症)が起きてくることです。ことに、視力低下につながる網膜症(中途失明の原因の第2位)、腎臓の機能低下を起こす腎症(透析導入の原因の第1位)、あるいは手足の感覚低下やしびれなどを引き起こす神経障害(足の切断などにいたる壊疽の原因にもなります)などが糖尿病に特徴的な合併症です。
また、心筋梗塞や脳卒中などの大血管合併症は、それほど糖尿病が悪化していない状態や予備群の状態でも進行します。いずれの場合も良好な血糖コントロール(少なくともHbA1C6.5%未満)を保つことが大切ですが、これに加えて血圧(大血管合併症や腎症)やコレステロール(大血管合併症)を十分コントロールすることも重要です。
このためには、適切な食事療法と、心臓などに病気がなければ、運動療法がすべての人に推奨されます。ことに肥満がある場合には、減量によって内臓脂肪から放出される悪玉アディポカイン(メタボリックシンドロームの項参照)を減少させることが重要です。それでも血糖のコントロールが良好にならないと、経口薬やインスリン注射などその人の状態に合った薬物療法が必要になります。
糖尿病は、一度かかると治るということがありませんので、まず予防が第一です。ただし、もし糖尿病になったとしても、食事・運動・(必要なら)服薬など自分自身をコントロールしていくことで、健康な人と変わらない長寿を保つことが可能な病気です。根気よく頑張りましょう。
植木浩二郎(東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科 准教授)
◇企画・監修:門脇孝東大大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授
1978年東大医学部卒業。86年から90年まで米国国立衛生研究所(NIH)糖尿病部門へ留学。01年、東大大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科助教授、03年現職。05年より東大医学部附属病院副院長。糖尿病の成因と分子機構に関する研究で、上原賞、日本医師会医学賞、日本糖尿病学会賞、ベルツ賞など受賞多数。糖尿病治療の第一人者としても知られる。日本糖尿病学会常務理事、日本肥満学会理事。第51回日本糖尿病学会会長(08年5月22~24日 東京国際フォーラム)を務める。
2008年4月22日 毎日新聞


