なくそう・減らそう糖尿病:正しく向き合い、早めに治療開始(その2止)
◆血糖値、自宅でもチェック可能/食事と運動、できることから
◇1型と2型、何が違う?
Q 糖尿病の1型、2型は何が違うの?
A 糖尿病には1型と2型がある。患者が多いのは2型で、国内の糖尿病患者の約95%を占めるとされる。もともとの体質に加え、食事や運動などの生活習慣が自身の処理能力を超えた場合に発症する。治療は、自身の処理能力に合った食事と必要な運動を行うことだ。必要により、経口血糖降下薬やインスリンを用いる。
一方、1型は予防はできない。インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)の細胞が、免疫異常やウイルス感染で壊れてしまうため、インスリン注射による治療が必須になる。1型は20歳までに発症する人が多い。生活習慣と関係なく発症するため、「2型とは違う。病名を変えてほしい」と訴える1型の患者も多く、1型への正しい理解が求められている。
Q 2型糖尿病は太った人がなる病気?
A 欧米では糖尿病患者の多くはかなりの肥満を伴うが、日本などアジア人では小太りか肥満でない人が糖尿病になるケースが多い。そもそも日本人は、膵臓でインスリンを分泌する能力が欧米の人より低いためと考えられている。
4月から始まる新しい健診制度「特定健診・保健指導」は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に注目し、腹囲中心に評価して動脈硬化や糖尿病になるのを予防する内容だ。だが、腹囲だけを見ていると、腹囲の大きくない糖尿病の人が見逃される可能性がある。
Q 食事は必ずカロリー計算をしなければならないのですか?
A 糖尿病食は食材や量など「制限食」とのイメージが強いが、厳密なカロリー計算より、全体のバランスに気をつけ、できることから段階的に取り組むことが成功の秘訣(ひけつ)だ。現在の食事を振り返り、過剰な点をチェックする。内容は、和食を増やしたり、野菜を多く口にするとよい。
同じ食材でも、油で揚げると網焼きに比べてカロリーが2~3倍になる食品もある。調理法によってカロリーが異なることを知り、食品交換表で同じカロリーの食材をチェックしておき、食材のバラエティーを増やすことも、食事療法に慣れるのに役立つ。
Q お酒は飲んではいけないの?
A アルコールそのものが血糖値を上げるとは限らないが、「食前酒」というものがあるように食欲を増進させる。また、アルコールで気が大きくなると、食事療法を忘れるなど、全体として血糖値を乱しがちである。
このため、糖尿病と診断されたら、原則としてアルコールを控えることが望ましい。しかし、厳格な食事療法はなかなか続かず、酒好きの人には急な禁酒はつらいことも多い。主治医に、ありのままの飲み方と食べ方を話し、血糖値の状態と合わせて適切な指導を受けよう。
◇「速足30分」、週5回以上
Q 仕事が忙しくて運動する暇がない場合は、どうすればいいの?
A 厚生労働省の「健康づくりのための運動指針2006」などによると、一般的な健康づくりの目標は「徒歩1日8000~1万歩分」。ウオーキングのような本格的なものだけでなく、家事で部屋の中を移動することでも構わない。血糖値を改善するには「速足30分」を週5回以上続けるような意識的な運動も必要だが、これは通勤のときに1駅分を歩くことなどでも十分だという。
一方、大阪ガスが81~91年に健康診断を受けた35歳以上の男性社員約1万人を6~16年間追跡した研究では、休日の過ごし方として週1回の運動習慣がある人は、ない人に比べ糖尿病の発病率が45%も低かった。平日はどうしても余裕がないという人は、週末に気分転換を兼ねて運動をすることも効果がありそうだ。
Q インスリンって何ですか?
A インスリンは体内で唯一、血糖値を下げる働きがあるホルモンだ。カナダの研究者が1921年に犬の膵臓を使った研究で発見した。
膵臓にあるβ細胞には血糖値を感知するセンサーがあり、血糖値が上昇するとインスリンが分泌される。適切に分泌され、筋肉や脂肪細胞表面の「インスリン受容体」と結び付くと、ブドウ糖は細胞に取り込まれ、適度な血糖値が保たれる。
糖尿病の治療では血糖値を調整するため、人工的に作ったインスリンを注射などで投与することが必要になる時もある。インスリン製剤は、効果を発揮し始めるまでの時間や持続時間によって、さまざまな種類があり、患者ごとに注射するタイミングや量が異なる。必要に応じて自分で血糖値を測定し、投与量を決める場合もある。
Q インスリン注射を始めると、一生やめられないの?
A 2型糖尿病はβ細胞そのものが壊れてしまう病気ではないが、血糖値が高い状態が続くと、インスリンの分泌がさらに悪くなったり、効きの悪化を招くという悪循環が生じる。その流れを途中で断ち切り、高血糖による合併症を予防するためインスリン注射を導入する。血糖値がコントロールできるようになれば、注射をやめ食事、運動療法だけか飲み薬の併用だけにすることもある。
一生続く治療法という誤解や注射に対する恐怖や手間などから、導入をためらう患者も少なくないが、適切な時期に導入することで、合併症の予防とともに自分の体の中でインスリンを分泌する能力を長続きさせられるという考え方もある。
Q 血糖値を自宅で測ることができると聞きましたが。
A 血糖値は体温や体重、血圧と同じように、自宅で患者さん自身が測れる。簡易血糖測定器は既に20年以上の歴史があり、手のひらに収まるくらい小型化している。測定方法は、まず、指先や手のひらを針で刺して1000分の1ミリリットル前後の血液を出す。測定器の血糖センサーにつければ、結果は5~15秒で表示される。食事や運動の前後に測定すると、大きく変動する血糖値の実態を把握できる。週に数回の定点測定なら血糖の変動が分かる。ただし、医療保険の対象の有無や消耗品に限度があるので、主治医と相談して始めてほしい。
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◇基本は生活習慣の改善--春日雅人氏・日本糖尿病学会理事長、神戸大教授
◇急速に進んだ研究
糖尿病は最近10年でその原因に関する研究が急速に進んだ。
まず、遺伝子レベルで発症の原因が特定され始めた。ある程度の年齢になれば、ほぼ100%発症するような遺伝子の変異は、5~10年前に相次いで見つかった。
ただし、これらの変異は患者の2~3%しか持っていない。そこで、確実に発症させるわけではないが、生活習慣などと相まって糖尿病に至るような原因を探す研究が進み、発症の危険を1・5倍くらい高くさせるような複数の遺伝子の変異が最近1年間に発見された。
こうしたリスクを複数持っていた場合、発症の可能性がどのくらい高まるかは分かっておらず、今後の研究による解明が期待される。遺伝子レベルで原因が解明されれば、患者一人一人の特性に合わせて治療法を決めるテーラーメード医療の実現にも近づく。
肥満との関係も、だいぶ明らかになってきた。肥満の人の体内では、脂肪細胞が中性脂肪をため込んでいる。この脂肪細胞から分泌される物質が、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の効きが悪い状態(インスリン抵抗性)を招くことなどが分かってきた。
◇生活激変で患者急増
発症原因の解明は進んでいるが、治療の基本は、やはり生活習慣の改善だ。
過去20~30年という短い期間で、日本人の遺伝子は大きく変わらないのに患者が急増しているのは、脂肪分の多い食事や体を動かす機会の減少など生活が激変したからだろう。
日本人を含めたアジア人は、遺伝的にインスリンを分泌する膵臓のβ細胞の機能が弱い。高脂肪食などで肥満になってインスリンの効きが悪くなると、インスリンを出し続けるためにさらにβ細胞を酷使しなければならない。
発症や悪化の予防には原因となっている生活習慣の見直しが欠かせない。
また、血糖値を下げる治療は、他の病気の治療と比べるとまだ難しい。デンマークの臨床研究で、2型糖尿病で尿から微量のアルブミンが見つかる患者を対象に、血糖値、血圧、コレステロールのそれぞれの目標値を設定した上で薬を使った強力な治療をした。血圧、コレステロールは50~70%の患者が目標値に到達したが、血糖値は20%程度の患者しか達成できなかった。
血圧、コレステロールと比べて血糖値のコントロールが難しいのは、食事などの生活習慣や、食欲といった本能的なものとより密接に関係しているからだろう。
今後は、精神状態に影響しない程度に食欲をうまくコントロールできるような治療法の研究なども進むのではないか。
毎日新聞 2008年3月25日 東京朝刊


