医療を変える 開業医
病院と「電子カルテ」網
電子カルテを前に、江幡さん(右)に説明する金子さん(千葉県山武市の松尾クリニックで)
千葉県東部の九十九里浜に面した山武(さんむ)市。松尾クリニック院長の金子昇さん(53)は、診察室のパソコンで電子カルテを開き、糖尿病を患う江幡和雄さん(72)に説明した。
「腎臓の働きを示す数値は良くありませんね。食事から摂取するたんぱく質も、1日40グラムに減らす指導が出ている。でも、ほかの数値は問題ないですよ」
画面に表示されたカルテの記載は、金子さんが書いたのではない。車で40分の距離にある県立東金病院の糖尿病専門医が2週間前、江幡さんの診察や検査結果を入力した内容だ。
江幡さんは普段、血糖値を下げるインスリン治療のため、松尾クリニックに通い、半年ごとに腎臓などの合併症の検査や栄養指導を同病院で受けている。
山武地域(2市4町)では6年前、東金病院を中心に、20を超える診療所や薬局、訪問看護ステーション、保健所などを回線でつなぎ、患者の電子カルテを共有する仕組みができた。「わかしお医療ネットワーク」という。
「地域の糖尿病患者が、十分な治療を受けられるようにしたかった」。発案者の東金病院院長、平井愛山(あいざん)さんはそう語る。
この地域でインスリン治療が必要な糖尿病患者は約1200人と推計される。東金病院と別の病院の専門医計3人が600人の患者を診ているが、残り600人は治療を受けていないとみられた。血糖値を強力に下げるインスリン治療は、血糖値を安定させる細心の注意が必要で、実施できる開業医は当時、一人しかいなかったことが背景だ。
そこで、平井さんは01年、開業医に糖尿病やインスリン治療の知識を深めてもらう研究会を病院で始めた。回線のネットワークは、病院と診療所とのこうした連携を背景に、経済産業省のモデル事業となった。
松尾クリニックの金子さんは呼吸器内科医で、糖尿病は専門外だった。しかし、研究会に積極的に出席し、以前ならすぐに病院へ紹介していた糖尿病患者も、かなりの数は自分で診られるようになった。
「専門医と一緒に診ているという安心感は大きい。患者が身近な開業医で治療を続けられ、忙しい病院勤務医の負担を減らす効果もある」と金子さん。患者の江幡さんも「二人の主治医がいて安心」と話す。
現在では、ネットワーク以外の医師も含め、36の診療所が年間計450人の患者にインスリン治療を行うまでになった。
開業医が能力を磨けば、地域医療の力はアップする。そのために病院などとの電子カルテ・ネットワークは有効だが、「まずは医師同士の結びつきが重要」と平井さんは言う。
電子カルテのネットワーク 鮮明な画像も共有できるため、過疎地での遠隔医療や医師不足の地域の医療にも有効だ。経済産業省は、香川、岩手、千葉、東京の4地域で、産科の基幹病院と開業医らをつなぐ「周産期医療」の実験事業を行っている。
2008年2月26日 読売新聞


